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アルティーリ千葉

ALTIRI CHIBA

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アルティーリ千葉のブレずに継続性のあるブランド創りを担う仕事人

アルティーリ千葉の歴史が動き始めてからまる2年が過ぎた。その間、B3からB2への昇格は創設初シーズンで達成し、2シーズン目にはB2最高勝率と東地区優勝を達成。プレーオフは激闘の末、B1昇格にはあと1勝とどかなかったものの、全日程が終わるまでのあまりにもドラマティックな戦いぶりは勝者たる個性を強く印象付けた。

クラブカラーのブラックネイビーと盾を模ったクラブロゴも、今や勝者のシンボルのようにファンから受け入れられている。ファンがブラックネイビーのアイテムを身に着けて観戦に訪れる光景はB3時代から毎度のことだったが、2022-23シーズンには、千葉ポートアリーナがそんな人々で何度もあふれる状況だ。

ブラックネイビーの海と化したアリーナで行われるホームゲーム会場には、ファンの愛情とチームの情熱を融合し、見えない力を生み出す様々な仕掛けがある。早めに来場するファンには、クールな千葉の街並みとクラブの魅力をフィーチャーしたコンセプトムービーがアイデンティティーとして定番化した。場内が暗闇に沈み、強烈なバスドラとギターリフがその闇を打ち砕く。ワイドビジョンにその映像が現れると場内の緊迫感が一気に高まり、「今日も勝つぞ!」というチームの決意がファンに伝播していく。

いよいよゲームが動き出そうというその時、青い閃光が場内を駆け巡り、ファンの愛情と期待が溶け込んだその輝きが選手たちの魂を燃え上がらせる。躍動の時間が始まり、ドラマが生まれていく。チャンスに、ピンチに、Aillsもしなやかなダンスで勝利の女神を振り向かせようと懸命だ。

ホームゲームはエキサイティングなエンターテインメント。シーズンが深まるにつれてそのボルテージはしだいに高まり、プレーオフセミファイナルGAME2では、クラブ史上初のスタンディングオベーションも沸き起こった。「チーバ! チーバ!」の大合唱が鳴りやまなかったあの夜、千葉はバスケットボール王国として世界に誇れるいしずえを確立できたのではないだろうか。

千葉をフランチャイズとするアルティーリ千葉ブランドをゼロイチで立ち上げる

チームを鼓舞するこうした演出の陣頭指揮を執るプロフェッショナルな超仕事人が、アルティーリ千葉に存在する。今野智弘氏、木村和史氏、そして小野田行宏氏という日本を代表する3人のクリエイターだ。

クラブが立ち上げの際に相談したのが、アルティーリ千葉の創設メンバーと旧知の仲で千葉出身。ファッション界で実績があり、特に古着界では目利き的なレジェンドで、自らもブランドを手がけヒットを繰り返している今野氏だった。「突然、久しぶりにお茶でもどうかと誘われて、『実はバスケットボールクラブを立ち上げるので手伝ってほしいんだ』と聞かされました」と今野は事の始まりを振り返る。

1977年に生まれた今野氏がバスケットに触れた中高生時代はNBA周辺カルチャーやヒップホップが世界的に広がった時期。その影響で興味の方向性が徐々にカルチャー側に振れ、最終的にクリエイターとしてのキャリアに到達した。2001年にはニューヨークで自身のファッションブランド「NEXUSVII.(ネクサスセブン)」を始動。現在までの22年間、幅広いファン層の支持を得ている。

「クラブから頼まれたのが、アルティーリ千葉のブランドを作ってほしいという命題。バスケットボールらしくまとまる必要はないからと。すごくいいお話で、こんな機会はなかなかないのでぜひ検討させてくださいとお答えしました。」

クリエイター魂に火をつけられた今野氏は、仕事を受ける決心をその時点でほぼつけていたが、構想の大きさを考えると生半可な関わり方は絶対にできない。そこで、同じ千葉出身で音楽や映像制作の知見を持つ木村氏に協力を仰ぐことにした。

「今野君とは昔から親戚みたいなつきあいで、NEXUSVII.も大好き。長年の感覚で、彼の考えもすぐにわかるんです」。こう話す木村氏は、本人曰く「音楽好きの映像屋」。自身のクリエイティブ・プロダクション「Kimgym(キムジム)」をプラットフォームとして、著名なミュージシャンのワールドツアーや名だたるグローバル企業のプロモーションにかかわった実績を持つ。バスケットボールとは縁遠かったが、クラブが語るアルティーリ千葉の構想は素直に頭に入ってきたという。「世界を魅了するというコンセプトを力強く出すこと。ゼロイチでもあるので、どこかにトーンを合わせる必要もない。世界の人々が『日本におもしろいクラブがあるらしい』と言ってくれるようなところを目指そうよと。それなら、僕らがこれまでに培ってきたエンターテインメントやファッションのカルチャーを上手にスポーツに落とし込んで、絶対におもしろいクラブができると思いました。スポーツは元々好きでしたから、ワクワクして乗り出しましたよ」

こうして創設当初のブランド構築がクラブと共に二人の手でスタートした。今野氏はクリエイティブディレクターとしてブランドの全体像を描く。クラブカラーであるブラックネイビーをどのように浸透させていくか、そのためにユニフォームはどんなものにするのが良いか、クラブロゴの認知度を高めるには何をするべきかなどを考え、形にしていく役目だ。「まず考えたのは盾(クラブロゴ)の位置づけです。そこから連想した中世の騎士とその時代をトンマナ(デザインの一貫性の土台)にしながら、昔ながらの由緒正しく重みのあるオールドイングリッシュのフォントを使って、盾との齟齬が生まれないように世界観を作っていきました」と今野氏は語る。

アーティスティックディレクターを務める木村氏は、今野氏が描いた絵の中で映像と音楽面を主な範疇として、その世界観を生み出していく。クラブのコンセプトムービーも木村氏の手によるもの。アリーナでかかる音楽のセレクションや組み立ても木村氏が中心となっている。

今野氏がクラブから渡されたのはクラブカラーとクラブロゴだけ。「そこからどんどん膨らませていってほしい」という要望だったが、シンプルなだけにアイディアが次々と浮かぶ。しかしこだわりを持てば、その分だけエキスパートの知見がさらにほしくなる。「すぐに二人では足りないねということになり、木村君を通じて、以前から彼の仕事仲間だった小野田君に打診してもらうことになったんです」

小野田氏は、映像制作やイベントなどのトータルプロデュースを手掛けるDevelopment合同会社 (ディベロップメント)の代表で、アルティーリ千葉ではクリエイティブプロデューサーという立場。東京ドームなど巨大な会場での映像演出プロデュース経験が豊富なことから、映像全般の制作進行からホームゲームの会場演出業務までを取り仕切っている。小野田氏もバスケットボールとのかかわりは薄かったが、やはりゼロイチのクラブ創設事業に惹かれた。世界的な名将アンドレ・レマニスを招聘してのライジングストーリーにも魅力を感じ、「それなら演出チームも世界から注目されるようなことをしよう」と意欲を燃やしたという。「照明やLEDビジョンなど機材の入れ方から舞台監督の起用まで、本当に音楽ライブのような座組でアルティーリ千葉のカルチャーを表現する作業には夢が膨らみました。チームが強くなるとともに、エンタメ会場としてのアリーナでファンをどうやって家族として巻き込んでいくか。細部まで手を抜かずきれいに表現していこうと3人で話し合いながら進んでいったんです」

こうしてそろったクリエイティブチームのブレーン3人の名前は、2021年7月19日に行われた創設シーズンの始動記者会見で公に紹介された。

「千葉発の世界一かっこいいブランド」の未来を信じる

クラブの構想に沿い、3人は世界を意識したブランド構築を推進していく。しかし周囲の見方は冷やかだった。「アルティーリ千葉を世界一かっこいいスポーツクラブにしたいんだと話したら、鼻で笑われました。『日本でそんなのできるわけないよ』という人ばかりだったんです」と今野氏は明かす。ファッション業界では日本こそトレンドメーカーであり、日本がイニシアティブをとって進めるプロジェクトがいくつもある。なのにバスケットボールはなぜこうなのか?俺たち日本人はバスケットボールで世界を見ちゃいけない——志のかけらもないこんな空気は受け入れられなかった。

「バスケットボールとなったとたんに、『だって俺たち日本だしさ…』と。こんな諦めに出会って、今に見ていろよ! というものすごく強い反骨精神が芽生えました。日本だからとか、バスケットボールクラブだからということは関係ありません。時間を重ねていけば、誰もがアルティーリ千葉のかっこよさを認めるようになると我々は信じています」。シーズン中にはNBAの視察にも出かけ、ロサンゼルス・レイカーズの試合でさらにインスピレーションを膨らませた。「我々なら、もっとすごいことができると思って帰ってきました」。今野氏はアルティーリ千葉のブランディングに対する自信をいっそう深めている。

そんな思いを実らせるために、世界一と謳える伝統を作りたい。「音楽も空間も、アルティーリ千葉のブランドの魅力が強く伝わるように」。街中を走るバスやモノレールがブラックネイビーの車体にシールドロゴというシンプルなデザインなのも、クラブが用意する様々なアイテムが基本的にすべてこの二つの要素だけで用意されているのも、焦らず必要なだけ時間をかけて伝統を築くためだ。「ブランドを尖らせるために、いろんなものを削ぎ落としています。周りのリクエストに応じて何でもやってしまうと「らしさ」が失われてしまうので、まずB1の地面に芽を出して、より多くの方々に見ていただけるようになるまでは、このブランディングを維持していく覚悟。その部分では、パートナーやファンの皆さんを含めて『アルティーリ千葉はこういうクラブ』という理念を受け止めていただいているのがものすごく大きな力になっています」と今野氏は語る。

木村氏も、「クラブには凛としたかっこいいイメージがあるので、軸をブラさずにアルティーリ千葉といえばこれという伝統に昇華させようとしています。そこから最終的には、この空気感を気に入ってくださっているファンの皆さんご自身が周りからかっこいいと言われるようにしていきたいですね」と話す。小野田氏は、そのためにファンの力も借りたいという思いを明かした。「僕らが唯一触れられないのがファンの方々。でも、ぜひとも会場で熱くなってほしい。そこを試行錯誤しながら、Aillsのディレクターさんらと話しているうちに、『ファンの皆さんに踊ってもらえたらいいね』『立ち上がって応援してもらえたらいいですね』という話になりました」

実はこんな会話が、プレーオフでのスタンディングオベーションにつながったそうだ。「あの前日にもそんな話をして、それができるのはMC Matsumi Takuyaさんしかいないねと。それで本人にファンの皆さんに呼びかけてみてくださいと持ちかけたんです」

直接的に触れることができないファンの思いとクリエイティブチームの思いが共鳴した結果、それまでになかったような熱狂が千葉ポートアリーナを満たした。

今野氏によれば、試合が終わった直後に大塚裕土選手から「あれはめちゃめちゃアガりました。ありがとうございました!」と声がかかったという。ブラックネイビーに染まった観客席が大声援とともに揺れる中、主軸のレオ・ライオンズ選手を故障で欠きながら、宿命のライバル長崎ヴェルカから気迫の勝利をもぎ取ったあの夜、アルティーリ千葉は最高にかっこよかった。日本では世界一かっこいいバスケットボールクラブなどできない——こんな幻想は今やアルティーリ千葉の世界には存在しない。

再びB1昇格を目指す旅、勝てる演出をファンと一緒に

その翌日、GAME3で敗れた後は「久しぶりに失恋したような感覚(小野田氏談)」。半年以上にわたる長いリーグ戦の重みも痛感した。それだけに、B2で2年目となる2023-24シーズンは、クリエイティブチームとしてブランド構築を停滞なく前進させ、よりパワーアップしたエンターテインメントでクラブの背中を押していく決意だ。「他チームが新アリーナをオープンさせていく流れの中で、ファンの視点からは様々な比較も容易にできる状況です。それでもブランドとしてはアルティーリ千葉が一番かっこいいと強く印象付けられるようにと思っています」と今野氏はオフシーズンから情熱を燃やしている。

演出面のリーダーシップを執る木村氏は、「勝たせる演出をという思いも強くなりました」と話した。

どんな曲調やテンポならプレーしやすいのか、クラブと試行錯誤しながら準備しているという。そしてもちろん、かっこよく、世界に誇れる伝統の礎となれるように。「バスケットボールを主役に据えながら、来場者がコンサートやクラブに来たような感じを持てるようにしたいとも思っています。アルティーリ千葉の試合は必ず何かおもしろいことが起こるホットスポット。そんな伝統が生み出され、ホームアリーナが千葉の象徴的な場所になるというのは素敵なビジョンですよね」

考えてみれば、アルティーリ千葉がコロナ禍の制限なしで開幕を迎えるのは創設3シーズン目にして初めてのこと。ホームゲームも、これまで以上の自由度の中でファンがプライドを感じながら楽しめる場所になる。そんな状況で、アルティーリ千葉が人々をつないでいけたら素晴らしいし、小野田氏は逆に「人のつながりが結集してアルティーリ千葉ができあがる」とも話す。今後クラブは新アリーナをオープンする予定だが、それまでにはクラブの伝統もずっと鮮明さを増していることだろう。「千葉全体がアルティーリ千葉の色で染まり、かっこいい街になっていくと信じています。」今野氏の言葉には自信と決意がみなぎっていた。