MENU

アルティーリ千葉

ALTIRI CHIBA

MENU
2022-23 SEASON ROSTER
2022-23 SEASON ROSTER

宝物を手に偉大なる歴史を創る旅路は続く

2022-23 season

本ページは、アルティーリ千葉を創設時より取材してくださっている月刊バスケットボールWEB・柴田健氏による「日本生命 B2 PLAYOFFS SEMIFINALS 2022-23」の激闘を綴ったコラムです。

B2東地区タイトル獲得とB2最高勝率を手に初のプレーオフへ

B2昇格後最初のレギュラーシーズンを、アルティーリ千葉はクラブとして初めての公式タイトルとなる東地区チャンピオンの座と、B2リーグ最高勝率という勲章とともに終えることができた。どちらも4月22日に行われた越谷アルファーズとのレギュラーシーズン最終節GAME1で確定させた栄誉だ。

越谷は東地区2位で地区優勝マジック対象の直接的なライバルであり、かつ前回の対戦で41点差の大敗(60-101)を喫した相手だった。大きなプライズとリベンジをかけた注目の一戦には3,801人の来場者が集まった。シーズンフィナーレのビッグゲームならではの緊迫感に包まれた千葉ポートアリーナで、アルティーリ千葉は第1Qから28-8と圧倒。ブランドン・アシュリーの25得点を筆頭に、3Pショット6本を沈め20得点のキャプテン大塚裕土、そろって16得点のイバン・ラベネルとレオ・ライオンズ(ライオンズはリバウンドも10本でダブルダブル)、そして小林大祐の12得点と5人が得点を2桁に乗せる会心のチームパフォーマンスで、91-73の勝利を手にした。

翌日のGAME2ではクラブ創設以来の最多入場者数記録を更新する4,212人のファンが来場。プレーオフを想定してそれまでと異なるプレーヤーの組み合わせも試した一戦で70-75の黒星を喫したものの、しばらく欠場が続いた岡田優介が3Pショット2本で6得点を挙げたほか、鶴田美勇士も23分50秒のプレータイムを得て4得点、±プラスマイナスも+5と貢献。ポストシーズンに向け期待が膨らむ戦いぶりだった。

レギュラーシーズン最終成績は前述のとおりリーグ最高となる47勝13敗(勝率.783)。プレーオフはすべて千葉ポートアリーナで戦うことができる。アルティーリ千葉はホームで24勝6敗(勝率.800)の好成績を残したが、中でもメインの千葉ポートアリーナは15勝3敗(勝率.833)とさらに強さを発揮した会場だ。大塚はシーズン中に、この会場では「負ける気がしない」と話していた。

クォーターファイナルの相手は、レギュラーシーズンを28勝32敗(勝率.476)の東地区5位で終えた青森ワッツとなった。勝率だけを見ると取りこぼしなく勝つべき相手と映るかもしれないが、レギュラーシーズン中に千葉ポートアリーナで喫した3敗のうちの一つは青森であり、アウェーでもビッグマンのファウルトラブルを突かれて一度敗れている。

しかし、5月6日に行われたクラブ初のプレーオフにおける初戦で、アルティーリ千葉は青森を104-68で吹き飛ばす。この試合では、21得点でチームハイのラベネルのほか大塚が19得点、小林15得点、木田貴明13得点と4人が2桁得点を記録。さらには10人がフィールドゴールを奪うなど、総合力も印象付けた。

レギュラーシーズンからの勢いをさらに強めたアルティーリ千葉は、翌日のGAME2にも81-68で勝利し、このシリーズを快勝で終える。プレーオフ・ブラケットの逆の山では、長崎ヴェルカが熊本ヴォルターズを破って勝ち上がっていた。これによりセミファイナルは、2022年に同じタイミングでB3新規参入を果たし、創設初シーズンにともにB2昇格を果たした宿敵との因縁の対決となった。

長崎は今シーズンを43勝17敗(勝率.717、西地区2位)で終えたチームだ。直接対決ではアルティーリ千葉が3勝1敗で上回ったが、唯一の黒星は千葉ポートアリーナで喫した。レマニスHCは、「B3時代と同じスタイルで、B2でも最もハイペースなオフェンスは脅威」という見方を語りつつ、宿敵との対決を前に「映画監督でもこんな面白い筋書きは書けません。さあ、やろうぜ! という感じです」と闘志を見せていた。

【QF GAME1,2】合計59分38秒出場し、25得点を挙げたチームの大黒柱レオ・ライオンズ

宿命のライバル対決で起こった悪夢

セミファイナルで2勝すればB1昇格とファイナル進出がかなう。しかし負ければもう1シーズンB2残留だ。どちらも「最短でB1昇格」という同じ目標を掲げているが、セミファイナルで戦う以上、どちらかがその目標達成への道をこのラウンドで断たれることになる。千葉ポートアリーナは、そんな非情とも言える運命の舞台だった。

5月12日の初戦、ゴールデンウイークが明けてすぐの平日ナイトゲームだったにもかかわらず、千葉ポートアリーナには3,368人ものファンが詰めかけ、千葉市長の神谷俊一氏も駆けつけて試合前に挨拶を行った。熱烈かつ緊迫した空気感の中で始まった試合は、杉本 慶のレイアップでアルティーリ千葉が先制。小林の3Pショットが続き5-2。アルティーリ千葉は上々のスタートを切った。

ところがティップオフから2分13秒過ぎに、ディフェンスをしていたレオ・ライオンズがアクシデントに見舞われる。不自然な体勢で突如フロアに倒れ込んだライオンズは、うつぶせたまま、痛みのためか、あるいは大事な一戦にもかかわらずコートを去らなければならないことを悟った悔しさからか、床を右手で何度もたたき顔を上げることができない。熱狂に包まれていた場内の空気が一瞬にして凍りついた。後日の発表によれば診断は大腿四頭筋腱断裂(復帰見込み未定)。ライオンズはこの時点で離脱となってしまった。

宿敵との対決に必勝を期して組み立ててきたゲームプランも、急遽、大幅に変更せざるを得ない。ただし、だからと言って白旗を挙げたわけではない。第1Qを18-18の同点でしのぐと、最大16点差まで引き離されたものの、最終クォーター残り3分3秒の木田のフィールドゴールで89-93の4点差まで追い上げる。最終的に91-104で初戦を落としたが、ブラックネイビーの勇者は一歩も引かない気迫を見せた。

後がなくなり、しかも3人だけの外国籍ビッグマンのうち一人が離脱。それでも試合後の会見で、アンドレ・レマニスHCは落ち着いた様子でこう語っていた。

「我々が東地区チャンピオンとなり、リーグ最高勝率を達成したことには理由があります。私はこのチームを信頼しているし、試合後彼らが話を聞く様子や、チームとして発言していたことを聞いてさらに自信を持つことができました。明日(GAME2)もいいプレーを見せてくれるでしょう」。

指揮官のそんな言葉を裏打ちするかのように、大崎裕太も「誰も下を向いていなかったので、明日はすべてを出し切ってしっかりと勝ってGAME3につなげられるように、今から準備していきたいと思います」と決意を語った。

【SF GAME1】17分3秒出場し、12得点を挙げた小林大祐

結束のスタンディング・オベーション

その会見から20時間も立たずに始まった翌13日のGAME2には、4,092人という多くのファンが来場した。これはその時点でクラブ史上2番目に多く、プレーオフでは最多となる記録だ。前日の試合をその多くが見ていただろう。来場した誰もがこの試合の意義をわかっている。MC Matsumi Takuyaのリードがなくても、“割れんばかりの”と表現したくなるような強烈なクラップとコールが自然と湧き起こった。

ライオンズからはファンに向けて、「僕のことは心配しないで(中略)新しい歴史を作るまであと80分。Stay together, 絶対にできる!」というメッセージが発信されていた。大塚によれば、チームメイトにも「自分のトラブルをエナジーに変えてほしいというメッセージがあった」という。

ティップオフに向かうブラックネイビーの勇者たちを、彼らと同じユニフォームやブラックネイビーのシャツを身に着けたファンは、荘厳なスタンディング・オベーションで送り出した。アルティーリ千葉のホームゲームでは初めての光景だ。勝とう。勝たせよう。一つになろう。結束の力が、試合前のアリーナを駆け巡る鮮やかなブラックネイビーの閃光に溶け込む。その輝きに撃たれたコート上の勇者たちは試合開始直後から躍動した。大塚の先制3Pショットが猛攻の始まりを告げる。第1Q残り2分43秒の大崎のレイアップでスコアは31-10。勝ちたい。勝たせたい。勝つ。勝たせてみせる。その思いは最高の形で結実する。

終わってみれば、4つのクォーターすべてでアルティーリ千葉が長崎を上回り、93-61の快勝。ライオンズ不在の窮地にアシュリーとラベネルはスタートから第4Q終盤までコートに立ち続け、アシュリーが22得点と20リバウンド、ラベネルも21得点に11リバウンドという大活躍だった。キャプテンの大塚も3Pショットを9本中6本沈めての20得点。主軸の爆発的パフォーマンスで、アルティーリ千葉はシリーズをタイに持ち込んだ。

大塚は試合後、コート上からファンに向けて、願いを込めてこう呼びかけた。

「皆さんの力で僕らを勝たせてください。あと1勝です、あと1勝! 全力で、コートで戦うので、皆さんも一緒に戦ってください!」

【SF GAME2】レオ・ライオンズを欠く中、37分57秒のプレータイムで21得点を挙げたイバン・ラベネルと、同プレータイムで22得点を挙げたブランドン・アシュリー

誇りとともに伝説の夜を胸に刻もう

キャプテンの呼びかけに応えるかのように、翌日のGAME3には前日を上回りクラブ歴代2位を更新する4,147人のファンが来場した。コートサイドには松葉杖をついたライオンズの姿もある。この日もスタンディング・オベーションが結束の力をコートに注いだ(試合開始時だけではなく、4つのクォーターすべての開始時に、スタンドを埋めたファンが総立ちになってチームを鼓舞した)。

ティップオフ。そしてこの日も、大塚の先制3Pショットがネットを揺らす。ラベネルが、木田が、杉本が続けざまに得点を重ね開始2分で9-0。長崎はたまらずタイムアウトを要求した。

しかし中盤以降、ライオンズ不在の中で奮闘するアシュリーとラベネルだけではなく、ディフェンスのローテーションで二人をカバーするウイングとガードのプレーヤーにも疲れの色が濃くなっていく。第3Q終了時点で63-74と11点差を追う状況。ファウルトラブルもあり厳しい展開だ。

それでもアルティーリ千葉は第4Qのスタートから驚異の粘りを見せ、19-2のランで逆転。残り5分の時点では82-76と優位に立っていた。勝利を信じる大観衆のボルテージも最高潮に達し、気迫の戦いが続く。

しかし最後の最後、3試合シリーズ120分間の最後の5分間、バスケットボールの神様はアルティーリ千葉に微笑んでくれなかった。86-91。動かすことができない、受け入れたくない敗北という結果が出てしまった。

悔しい思いがこみ上げて胸の震えが止まらない。自然と目が曇って、コート上のプレーヤーの背中も、思いを同じにする傍らの仲間の潤んだ瞳さえ、まっすぐに見ることができない。肩を抱かれて目頭をタオルで抑える。観客席のいたるところにそんな人々の姿があった。

振り返っても、この夜を恥じる理由は一つもない。アルティーリ千葉の一員ならば、思いを同じにするファンの一人ならば、誇りに思えることばかりの夜のはずだった。ただ、究極の喜びだけがそこになかった。

今は、この夜をしっかりと胸に刻むしかない。全力で勝利を追い求めたこの夜を、チームの奮闘に喉をからして声援を贈ったこの夜を忘れまい。プレーヤーも、スタッフも、ファンも一丸となって最後まで戦った誇りを持って、宿敵の勝利を称えよう。

会場にいた人はもちろん、それ以外の方法で試合の様子を追いかけたファンの多くが、そんな思いを共有して見守ってくれたに違いない。クラブとしてそう思わせてもらえたことが、アルティーリ千葉をネクストレベルに前進させる力になる。

千葉ポートアリーナで行われた宿命の対決は、間違いなく新たな歴史となった。アルティーリ千葉はシーズンを締めくくる3位決定戦へと進む。激闘の後、千葉の夜空からはこらえきれぬ涙のような細かな雨が舞い落ちていた。

【SF GAME3】脳震盪を起こすも36分59秒のプレータイムで、24得点を挙げる杉本慶

B1昇格、B2制覇と新B1基準達成を目指す2023-24シーズンへ

翌週、西宮ストークスとの3位決定戦に臨んだアルティーリ千葉は、B1昇格を逃した悔しさを完全に振り払えていたとは言い難い。しかも、ライオンズに加えて杉本も、セミファイナルGAME3後に脳震盪と診断されてGAME1を欠場しなければならない状態だった。

物理的なプライズが何もかかっていないこの対戦に満身創痍の状態で臨み、それでも見出すべき意義は何だろう。それはファンへの感謝を体現する、アルティーリ千葉のバスケットボールを最後まで披露することに尽きた。

だがこの状態で、それができるだろうか。

ティップオフの10分前、いつもと同じNujabesの『Luv(sic)pt.2 ft Shing02』の優しいビートが緊迫したアリーナの空気を和らげていた。「愛しきあなたへ」という言葉で始まるこのローファイ・ヒップホップの名曲は、「こうしてあなたと出会えたことで、言葉を失うほどの幸せに浸っている」と歌うメロウなラップだ。クラブとチーム関係者のファンに対する心境そのもののようなこの曲とともに、チームは少しずつ気持ちを高めていく。

何とか前を向こうとしているブラックネイビーの勇者たちを、ファンはこの日、限りなく温かいスタンディング・オベーションで抱きしめた。翌日のGAME2でも同じことが起こった。クラブ誕生から2年が過ぎ、「世界中のファンを魅了するクラブを創る」というビジョンがこのような形で表現されるようになったことが誇らしく、ありがたい。最後の2試合は勝つことができなかったが、ファンからの温かな愛情を受け、すべてを出し切ってシーズンを終えることはできた。

クラブの代表を務める新居佳英は、両日とも試合後のコートに立ってファンに直接感謝の思いを伝えている。「来年の今頃、この経験があったからこそ強くなれたと思えるように」。そんな言葉とともに新居は、2023-24シーズンにB1昇格、B2制覇、そして新B1基準をクリアする平均4,000人の集客を目指すことも宣言した。

レギュラーシーズン60試合とプレーオフの7試合。2022-23シーズンの67試合を、アルティーリ千葉は戦い抜いた。B2東地区王座獲得とB2最高勝率達成、そして千葉市にこれまでなかった熱狂を生み出すファンベース。かけがえのない宝物を手に、偉大なる歴史を創る旅路は続いていく。

【3位決定戦 GAME1,2】合計で26分10秒出場し、合計12得点を挙げる藤本巧太