MENU

アルティーリ千葉

ALTIRI CHIBA

MENU
10Days to Remember

本ページは、アルティーリ千葉を創設時から取材してくださっている月刊バスケットボールWEB・柴田健氏が、2023-24シーズンの10日間を振り返り「あの日」のクラブとA-xxの心境を綴ったコラムです。

2023年10月7日(土) A-xxのホームデビューを勝利で飾る

アルティーリ千葉の2023-24シーズンは、「ホームタウン千葉市デー」と銘打って千葉ポートアリーナで開催されたこの日のバンビシャス奈良戦で開幕した。"A-xx"の愛称を得た熱烈なファンのホームデビューも同じ日だ。ティップオフの約1時間以上前から、アリーナエントランス前のキッチンカー周辺はA-xxで賑わい、アリーナ内のグッズコーナーも「ブラックネイビーの人だかり」だった。

試合開始10分前、昨シーズンと同じNujabesの『Luv(sic) part 2 featuring Shing02』が流れ、約5ヵ月前に同じコートで繰り広げられた激闘の記憶をよみがえらせた人も多かったかもしれない。しかしこの日からまた新しい歴史の1ページを創るのだ。神谷俊一千葉市長からの激励の言葉に続いて、Aillsの凛々しいパフォーマンスがアリーナ全体をエナジーで満たし、A-xxのスタンディングオベーションの中、ついにティップオフ。2023-24シーズンのアルティーリ千葉が走り始めた。

A-xxは試合開始早々から新しい応援スタイルにもすっかり順応しており、強烈なクラップとコールで圧倒的なホームコート・アドバンテージを生み出していた。アルティーリ千葉は開始5分過ぎに17-7とリードすると、主導権を握ったまま95-80で勝利。18得点、12リバウンド、8アシストの新戦力デレク・パードンを筆頭に、5人が2桁得点を記録する快勝だった。

思い返せば、コロナ禍の応援制限なしで迎える開幕戦はアルティーリ千葉にとって初体験だ。その特別な日にクラブ新記録となる5,323人の入場者を迎え、観客席がブラックネイビーに染まった様子に、アンドレ・レマニスHCは「涙が出そうだった」と感激していた。

11月25日(土) Bリーグ歴代最長身、“ビッグリュウ”登場

11月最後の土曜日は、千葉ポートアリーナで新潟アルビレックスBBとの初対戦だった。アルティーリ千葉にはBリーグ歴代最長身となる226cmのセンター、リュウ・チュアンシンが加わっていた。リュウはとにかく大きい。ダンクはほとんどジャンプせずに楽々できる。そばに身長206cmのブランドン・アシュリーが並んでも、標準的な成人男性が立っているような錯覚をしてしまう。そしてレイアップはリュウの場合、ゴールの上からボールを落としているので、実際には「レイダウン」と表現した方が正確かもしれない。そんな規格外の大きさに、場内は試合前からどよめいていた。

試合の方は序盤こそ新潟に先行を許したものの、第1Q半ばからはアルティーリ千葉がディフェンスのギアを上げ主導権を掌握。試合を通じて18得点、7リバウンド、2ブロックのアレックス・デイビス、同7得点、5アシスト、4スティールの前田怜緒らの躍動で、81-52と点差をつけて勝利した。これで連勝が今シーズン最長の6まで伸びている。リュウは第4Qの10分間をフル出場して7得点。思い切りよく放った3Pショットがみごとにネットを揺らした時には、驚きの混ざった大歓声がアリーナを満たした。

ハーフタイムに行われた、A-xx vs. 新潟ブースターの対戦形式でのフリースローチャレンジも、和やかなひとときを生み出した。両チームを応援する来場者がボールと一緒に心を弾ませ得点を競う。その情景は微笑ましく、激闘のコートをほんの少しの間だけ友愛の舞台に変えてくれていた。

12月2日(土) “ホームアドバンテージ”を打破した春日部決戦

12月は初週からビッグゲームだった。東地区のライバル越谷アルファーズと、アウェーのウイング・ハット春日部で2ラウンド目の対決だ。

千葉市周辺からこの会場までは、約2時間かかる。道中は越谷のポスターやチームへの応援メッセージの掲示がちらほら。観客席ももちろん、越谷のチームカラーがかなりの比率を占めていた。「レッツゴー、アルファーズ!」の連呼も力強い。しかしそのようなアウェー会場の中でも、A-xxは相当な存在感を放った。アルティーリ千葉のベンチ裏を中心に、総勢200人近くだろうか、ブラックネイビーの一画ができていた。

前回は10月22日にホームで敗れただけに、今度は負けられない。11月30日に小林大祐の離脱(右足関節内果骨折)が明らかとなり、杉本慶も欠場中だが、だからこそ総合力に期待がかかる。ティップオフ前、アルティーリ千葉ベンチは一同起立してコートに一礼し、気合い十分な様子だった。

試合は序盤の接戦から、両チームを大きな波が行き来した。アルティーリ千葉はデレク・パードンの速攻で13-10としたところから、超ビッグラインナップが奏功して32-13とリード。しかし以降は越谷の巻き返しに手を焼いた。窮地を救ったのは熊谷尚也だ。越谷のホームアドバンテージを吹き飛ばすようなA-xxの大声援に、残り約1分半からのクラッチスリーとスティールで応えてみせた。アルティーリ千葉は68-65の勝利。連勝は8まで伸びている。

2024年1月31日(水)黒川虎徹がホームデビュー

ベルテックス静岡を千葉ポートアリーナに迎えての、今シーズン最後の平日ナイトゲーム。アルティーリ千葉は、前節アウェーでバンビシャス奈良に苦戦を強いられた後だ。奈良のゾーンディフェンスの前に2試合とも80得点未満。GAME2は第3Qに15点リードされる厳しい展開だった。それでも連勝を5に伸ばして迎えたこの日は、厳しいディフェンスから爆発的なオフェンスへとつなげる姿を見たいところ。岡田優介がキャリア通算5000得点にあと2という状態でもあるが、果たしてどうなるか?

そんな見どころとともに迎えた当日、A-xxの出足も良かった。公式入場者記録は4,533人。ティップオフ前、夕闇のキッチンカー周辺では、ハッピーアワーの暖かい灯りに照らされながら、ブラックネイビーのユニフォームやシャツ姿のA-xxが会話に花を咲かせていた。

結果は90-56という大差でアルティーリ千葉が勝利。前節のGAME2で2得点にとどまったブランドン・アシュリーが、前半だけで18得点(試合を通じて21得点)と本領を発揮した。ホームデビューを飾った黒川虎徹のルーキーらしからぬ活躍も特筆に値する。16得点に5アシスト。アンドレ・レマニスHCも「段違いのスピード!」と笑顔だった。

終盤は、岡田の記録達成を狙うアルティーリ千葉と絶対阻止の気合いを見せる静岡の意地のぶつかり合いに。誰で来るか誰もがわかっている真っ向勝負の緊迫感とA-xxの笑顔がアリーナを輝かせた。最終的に岡田の記録達成はお預けとなったが、本人は「じらしたわけではありません」。記録は翌週2月4日(日)の滋賀レイクス戦でみごと達成している。

2月24日(土) シーズン通算入場者数10万人突破

西地区3位の熊本ヴォルターズとの今シーズン初対戦。前シーズンのホームゲームはバルドラール浦安アリーナだったので、千葉ポートアリーナでの対戦はこれが初めてだ。

「ALTIRI WONDERLAND」と題し家族向けアトラクションの数々を用意したこの日は5,226人が来場し、シーズン通算入場者数が10万人を突破した。前日の雨が肌を切るような冷たい風を残していたが、ティップオフ前のキッチンカー周辺では、春の兆しを探すかのようにA-xxが場外ブースを楽しんでいた。

アルティーリ千葉のホームゲームは、対戦相手を自チームよりも45分早く紹介するのが常だ。そして、相手のチームカラーに合わせたライティングで敬意を表す。熊本のメンバー紹介には、互いの健闘を願う思いも乗せて、ブラックネイビー基調の場内に真っ赤な閃光を走らせた。

さて、試合の方は序盤からアルティーリ千葉が突っ走り、98-73で勝利。エースのブランドン・アシュリーが28得点と爆発し、2年前まで熊本に在籍した木田貴明も恩返しの13得点を記録した。身長226cmのリュウ チュアンシンと同206cmのアレックス・デイビスが相手ガードにトラップを仕掛けたディフェンスには、驚いたA-xxも多かったのではないだろうか。選手たちは攻守に見応えを提供してくれていた。

その夜千葉の街は、A-xxへの感謝と勝利の喜びに満たされた1日を象徴するかのような満月に照らされた。スノームーンとも呼ばれる2月の満月は、地球からの距離が1年間で最も遠いという。しかしその月明かりは気高く、力強かった。

4月13日(土)ホームフィナーレ「A-xx Day」

「本日は満員となっております」——ティップオフ20分ほど前にこんなアナウンスがあった。同じ頃には大人気のガチャもマシンの中が空になったほど、この日の千葉ポートアリーナは大盛況だった。

いよいよレギュラーシーズンのホームフィナーレ。シーズンを通じての温かな声援への感謝を込めて、「A-xx Day」と銘打ったこの週末の2試合は、プレーオフセミファイナルで当たる公算が強い越谷アルファーズが相手だった。ここまで52勝4敗のアルティーリ千葉は、越谷を18ゲーム引き離しているが、この対戦にどんな意味があるか誰もが理解している。注目のGAME1には、クラブ記録をあらためて更新する5,530人が来場した。

うれしいニュースは、3月17日の青森ワッツ戦以来戦列を離れていたブランドン・アシュリーの復帰だ。MC Matsumi Takuyaのイントロダクションにも力がこもっていた。

試合は越谷に先制されやや重たいスタート。しかし、キャプテン大塚裕土の3連続3Pショットが嫌な空気を吹き飛ばす。鶴田美優士のアシストからの2本目で6-4と逆転すると、次も鶴田のパスから続けざまに決めて9-6。「大塚裕土オンファイヤー!!」というMC Matsumi Takuyaの絶叫がアリーナに響き渡った。

そのまま良い流れに乗ったアルティーリ千葉は87-83で越谷に勝利。翌日のGAME2に向け、気持ちを高めて1日を終えた。

なお、翌日は大崎裕太や杉本慶らのビッグショットがさく裂して83-79の白星を収めるとともに、入場者数も5,589人と連日クラブ記録を上書き。最終的にシーズン平均入場者数記録を5,005人まで伸ばすことができている。

5月3日(金・祝) 強大なホームアドバンテージ

長編映画『The Journey』の告知がXで始まって2日。すでにその投稿の閲覧数が18万を超えていた。今日からプレーオフ。千葉ポートアリーナに、この人たちに会いに行く。ともに戦うA-xxが頼もしく誇らしい。

試合開始数時間前からアリーナ周辺の人出は多く、ブラックネイビーのさざなみが初夏の日差しにキラキラしていた。入場者数はクラブ新記録の6012人。プレーオフ限定アイテムのガチャコーナーも長蛇の列だった。

熊谷尚也の戦列復帰に観客席が沸き、スタンディングオベーションが決戦の時到来を告げる。アルティーリ千葉は91-78で勝利。好スタートだ。

5月11日(土) ワン ダウン

ベルテックス静岡を2連勝で下したアルティーリ千葉は、とうとうセミファイナルに帰ってきた。B1昇格まであと2勝。ブランドン・アシュリーのお気に入りというケンドリック・ラマーの『Not Like Us』が、試合前の緊迫感を高めていく。A-xxが掲げるハリセンが煌めく中、チームイントロダクションでは2ヵ月ぶりに戦列復帰となる黒川虎徹が元気にコートに飛び出した。あとは勝つだけだ。

しかしGAME1は、オーバータイムの末93-97の黒星となった。

良い時間帯は何度も来た。第4Q残り2分半で75-82と追い詰められても、アシュリーと杉本慶のクラッチショットで84-84の同点に追いついた。OTでもキャプテン大塚裕土の3Pショットで89-88と逆転し、さらに大塚のスティールからアシュリーがダンクを決めて91-88とリードを広げる場面があった。

最終局面でいったんゲームクロックがゼロとなった後、アンドレ・レマニスHCが時計管理の異常を指摘し、OTの最後の3.3秒をやり直しに持ち込んだことも含め、チームとして何があっても最後まで戦い抜くという姿勢を見せた。

3月10日以来2ヵ月ぶりの敗戦に、大塚は「初戦を取りたかった」と素直な心境を吐露したが、チームとして昨年のセミファイナルのようなショック状態ではない。アルティーリ千葉のバスケットボールを全力でやり切れる状態にあり、明日またチャンスがある。

5月12日(日) 痛恨の2連敗

前日に比べかなり肌寒い一日だったが、千葉ポートアリーナにはこの日も新たなクラブ記録となる6,031人の大観衆が集結した。来場できなかった人々も含め、すべてのA-xxの思いがコート上に注がれていることを、チームもひしひしと感じていた。

アンドレ・レマニスHCが30分ほど前にコートに姿を見せると、ブラックネイビーの海と化した観客席から大きな拍手が沸き起こった。前日の敗北を受け、選手たちは熱い気持ちをみなぎらせている。スターター紹介では、最初にコールされた前田怜緒が勝利への決意に満ちた表情でコートに登場。頼むぞ、レオ!——A-xxの大声援とクラップを背に、必勝を期すアルティーリ千葉の戦いが始まった。

その約2時間後、起こったことをどう受け止めればよいのか。すべてが信じられない。72-75。0-2。数字の羅列が意味するものが理解できない。

なぜアルティーリ千葉が? なぜ我々のチームが?この敗北と向き合わなければならない意味がわからない。全力を尽くし、最後まで走り続け、究極の目標に届かない現実が示すものは何なのか。

目の奥が熱くなり、拭っても、拭っても熱いものが頬を伝ってこぼれ落ちる。何度も何度も襲ってくる現実を受け止めきれない感情を、いつまでも振り払うことができなかった。

5月19日(日) 輝ける千葉ポートアリーナ

このチームでの最終戦。しかし正直、この日までやり切ろうと思えるまでに時間が必要だった。自分たちだけでは前を向くことができなかったのだ。

忘れてはいけない誇りを思い出させてくれたのは、A-xxからの激励の言葉だった。そして5,112人のスタンディングオベーション。奮い立ったアルティーリ千葉は97-79で山形ワイヴァンズを倒し、昨年を上回る3位の座に就いた。

手放しには喜べないが、やり切って本当に良かった。A-xxの笑顔に輝いた千葉ポートアリーナが、チームをそんな気持ちにさせてくれた。その感謝を忘れず、再び前進あるのみだ。