

本ページは、アルティーリ千葉を創設時から取材してくださっている月刊バスケットボールWEB・柴田健氏が、2024-25シーズンの軌跡を綴ったコラムです。


アルティーリ千葉の2024-25シーズンは、クラブの歴史における転換期として記憶するにふさわしい、心躍る旅路となった。
新チームは始動にあたり、クラブ創設からの歴史を作ってきた功労者たちとの別れを乗り越えた。創設メンバーである岡田優介、小林大祐、そしてアレックス・デイビスとリュウ チュアンシン——2023-24シーズンの旅路を共に歩んだ仲間たちと袂を分かつ決断となった。
代わって、それまでライバルチームとして対戦してきたポーターと長谷川を新戦力として迎えた。
これまでの歴史とクラブの想いをどこまで受け止めてもらえるのか。そんな心配は杞憂でしかなかった。越谷をB1に送り出した長谷川は、「僕が来たからには必ずB1に昇格させてみせます」と意気込みを語り、ポーターも「皆から昨季の悔しかった経験を聞いています。一緒に戦い抜くつもりですよ」と気持ちを一つにしていた。

クラブコンセプトのUbuntu(「あなたがいるから私が成功できる」とする、アフリカの哲学に由来する考え方)が順調に浸透したことは、開幕前から感じられた。プレシーズンゲームでは、レバンガ北海道を相手に83-71でクラブ史上初めてB1クラブ相手に勝利。天皇杯でも大阪エヴェッサを86-75で破ると、3次ラウンドのファイナルで惜敗したものの名古屋ダイヤモンドドルフィンズ相手に終盤まで接戦を演じた。
大塚は「B2での2年間を経て、今年はチームの成長を結果でわかってもらえるようにすることも大事」と話していたが、早々に目に見える形で成長ぶりを示すことができた。



昨季を上回る快進撃
2024年10月5日に幕を開けたレギュラーシーズンは素晴らしいスタートだった。
熊本ヴォルターズとの開幕節は、熊本県立総合体育館に大勢のA-xxが来場し、シーズン開幕を祝す熱い千葉コールを贈ってくれた。期待に応えようとチームも燃える。杉本慶から木田貴明を経てデレク・パードンのベビーフックでフィニッシュするチームオフェンスで先制すると、40分間走り続けて96-78で勝利。翌日のGAME2では、107-85と早くも今季初めてスコアを3桁に乗せた。この試合では、木田が古巣相手に3P 8本を成功させて30得点。パードン、ポーター、ブランドン・アシュリーの外国籍トリオはそろってダブルダブルを記録した。

翌週末12日には、ベルテックス静岡を千葉ポートアリーナに迎えてホームの幕を開けた。コートサイドや客席に、Aillsの笑顔が輝く。
試合開始10分前、創設初年度から変わらないNujabesの「Lub(sic)pt.2 ft Shing02」が流れたところでは、昨季までの激闘の歴史を思い起こしていたA-xxも多かったのではないだろうか。
神谷俊一・千葉市長を含め、来場者数はレギュラーシーズンにおけるそれまでのクラブ記録を更新する5,916人。コート上の選手たちを満場の手拍子が包み込むティップオフから、千葉ポートアリーナでの新たな歴史が動き出した。
このホーム初戦は、1Qに3本連続で3Pを成功させた大塚らの活躍で流れを掌握。フィジカルな戦いに力負けせず91-74で押し切った。翌日も73-55で連勝を4に伸ばしたが、この日は来場者数でも5,938人とクラブ記録を更新。Ubuntuの精神が運営面でも非常に高いレベルで体現されていることを強く印象付けた。
翌週末12日には、ベルテックス静岡を千葉ポートアリーナに迎えてホームの幕を開けた。コートサイドや客席に、Aillsの笑顔が輝く。
試合開始10分前、創設初年度から変わらないNujabesの「Lub(sic)pt.2 ft Shing02」が流れたところでは、昨季までの激闘の歴史を思い起こしていたA-xxも多かったのではないだろうか。
神谷俊一・千葉市長を含め、来場者数はレギュラーシーズンにおけるそれまでのクラブ記録を更新する5,916人。コート上の選手たちを満場の手拍子が包み込むティップオフから、千葉ポートアリーナでの新たな歴史が動き出した。
このホーム初戦は、1Qに3本連続で3Pを成功させた大塚らの活躍で流れを掌握。フィジカルな戦いに力負けせず91-74で押し切った。翌日も73-55で連勝を4に伸ばしたが、この日は来場者数でも5,938人とクラブ記録を更新。Ubuntuの精神が運営面でも非常に高いレベルで体現されていることを強く印象付けた。

それが単なる印象ではないことが、5日後の17日に明らかになる。B.LEAGUE PREMIERライセンス交付が発表されたのだ。新居佳英CEOは、「本当に多くの方々に支えられて、今日までやってくることができました」と謝意を示し、A-xxと喜びを共有した。
ここからはB1昇格とB2優勝を成し遂げるのみ。集中力を高めたアルティーリ千葉は、2024年内に13連勝を2度達成。新年をB2全体1位の26勝2敗で迎えた。
これだけ好調だと、選手たちが平常心を忘れてしまうような時期も必ずあるものだ。しかしチーム内では、様々な選手から気を引き締めるコメントが上がっていた。
例えば大崎裕太は、開幕からの13連勝中に、「チームとしてまだ無敗なので、少し心に隙ができているのかもしれない」と話した。また、11月10日の鹿児島レブナイズ戦では、僅差のビハインドで迎えたハーフタイムにコート上で長々と円陣を組む場面があった。木田によれば「自分たちのバスケができていなかったので、キャプテンを中心に集まりました」とのこと。「僕からも一言、『コーチからいろんな指示があるけど、結局コートでそれをやるのは自分たち。落ち着いてやれば必ずうまくいくから』と話させてもらいました」。

こうしたコミュニケーションに関しては、長谷川の存在も非常に大きい。杉本によれば長谷川は「(緊張の)糸を張り詰めさせる役」。しかし一方では、「僕らが締まらなかったら彼のせいです!(笑)」と茶化せるほど親しみやすい人柄だ。
明るく力強い長谷川のリーダーシップはユニークで、大塚のキャプテンシーとのハーモニーがチームのポテンシャルを最大限に引き出すように作用していた。



記録を塗り替えプレーオフへ

2025年の元日、多くのA-xxを喜ばせる発表があった。福岡大附大濠高をウインターカップ優勝に導いた身長206㎝のオールラウンダー、渡邉伶音(現・東海大1年)が特別指定選手としてアルティーリ千葉に加わったのだ。
渡邉は千葉県柏市出身で、FIBA U19 ワールドカップ 2023で日本の8強入りの原動力となった有望株。
「千葉県のプロバスケットボールクラブで活動させていただける事がとてもうれしく、感謝の気持ちでいっぱい」という熱烈なコメントも、A-xxを魅了させたことだろう。3月末までの所属期間に出場したのは11試合。その間、渡邉がコートに立つたびに、杉本や長谷川、鶴田美勇士らが経験を積ませようと協力する微笑ましい光景も試合を盛り上げる要素になっていた。
中でも大喝采が沸き起こったのは2月16日。その時点で今季唯一黒星を喫した相手である福井との4Q終盤、鶴田が果敢なアタックで相手ディフェンスを収束させ、こぼれたボールを自ら回収。回ってきたボールで渡邉が101点目となる3Pを沈めたその一本は、今季のハイライトの一つだ。

渡邉や、シーズン半ばから存在感を増してきた黒川虎徹ら若手の台頭にも勢いを得たアルティーリ千葉は、その後も富山グラウジーズにアウェーで1敗したのみで、レギュラーシーズンを終えた。最後はクラブ記録に並ぶ18連勝。通算成績57勝3敗(勝率.950)と、ホームで無敗の30連勝はどちらもリーグ歴代最高記録だ。
運営面での成長も顕著で、ホームでの入場者数は昨季を上回るB2トップの5,296人。これはB1を含めたリーグ全体でも7位に相当する数字だった。
また、信州ブレイブウォリアーズと戦った4月20日のシーズンフィナーレでは、大塚が3Pを3本成功させて2年連続3P成功率1位の座を確定させた。今季は開幕からスターターの座を譲る苦難の道のりだったが、終わってみれば歴史的快進撃の中で全60試合出場を果たして個人タイトルを奪取。努力を実らせたキャプテンの背中は、プレーオフに臨むチームに大きな自信をもたらした。


セミファイナルの見えない壁を打ち崩す

そしてまた、今年も5月がやってきた。
クォーターファイナルの相手は熊本。前半戦の不振をコーチ交代を経て脱却し、後半戦で勢いよく巻き返してきたチームであり、プレーオフで半年ぶりの対戦となる非常に手強いな存在だった。
しかしアルティーリ千葉は力強いチームプレーで相手にスキを与えず、スウィープで乗り切る。GAME1は、勝負どころの4Q序盤に杉本が8連続得点を記録して突き放し、90-72の勝利。GAME2は、前半終了時点で57-29と圧倒し、93-77と最後まで相手を寄せ付けなかった。

ついにB1昇格を決めるセミファイナルの舞台に戻った。相手は鹿児島と3試合を戦ってアップセットに成功した信州だった。
セミファイナル初戦当日、千葉ポートアリーナはそれまでにない熱気に包まれていた。ティップオフの瞬間はA-xx全員がスタンディングオベーションで参戦。
試合開始から大歓声に背を押され、杉本の3Pでアルティーリ千葉が先制した。序盤は点の取り合いとなったが、このクォーターの残り3分を切ったところでアシュリーが速攻からダンクを決めて26-16。そこからはアルティーリ千葉の攻勢が信州を圧倒した。最終スコアは83-59。アルティーリ千葉は、セミファイナル GAME1をクラブ史上初めて勝ち取り、B1昇格に王手をかけた。

2025年5月11日、B1昇格を決定づけるGAME2に、クラブ新記録となる6,042人の大観衆がブラックネイビーに染め上げた。再びティップオフのスタンディングオベーションが信州を飲み込む。ボールが動き出すと、A-xxの大声援と鋭いクラップが千葉の大地を揺るがすように鳴り響いた。
それでも、後がない信州は懸命に対抗する。最終クォーター開始時点で56-53。これまで2年連続でアルティーリ千葉の前に立ちはだかった、セミファイナルの目に見えない壁が、この日も行く手を阻むかのようにそびえ立っていた。
あと10分。高く分厚いその壁にブラックネイビーに輝く斧を振り下ろせ!
アルティーリ千葉らしいバスケットボールを証明しよう!

4Q残り8分29秒、熊谷尚也が2本の3Pを沈めて68-57。リムの奥を叩いた2本目のショットは、高々と真上に弾み、A-xxの声援が叩き込むようにネットに吸い寄せられた。続けて、パードンが、ペイントでしぶとくショートジャンパーを沈めて70-58。黒川虎徹のイージーバスケットで、残り6分過ぎにリードは72-58と14点差に。
アシュリーも1本をねじ込み74-60。B1への道が少しずつ照らされ始める。時間を追うごとに力を増すA-xxの大歓声が、きしみ始めたセミファイナルの壁を揺るがしオフィシャルタイムアウト。あと4分43秒間。あと少し。あと一本…。
信州はあきらめていない。残り3分13秒、ウェイン・マーシャルがフリースロー2本を決めて点差は74-66と一桁に。さらに、残り2分27秒には、エース・アシュリーがファウルアウトしてしまう。

しかし、大きなピンチにアルティーリ千葉は真価を発揮した。前田怜緒が、パードンが、コート上の5人が懸命に身体を張って信州の24秒ショットクロックオーバーを誘う。我々が誇ってきたディフェンスが、悪い流れを断ち切る。
残り36秒、前田前田の2本目のフリースローがネットに吸い込まれた。これで、3ポゼッション差。壁の向こう側が見えてきた。
ウィニングボールが前田の手に渡り、歓喜の瞬間。杉本が前田に歩み寄り涙の抱擁を交わすと、勝利のブザーと共に大きな壁は崩れ、アルティーリ千葉が夜明けを迎えた。選手、スタッフの目には、昨年までとは違う嬉し涙が光った。






あなたのために、あなたとともに
試合後のコート上で行われたセレモニーで、大塚は「今日は、若い選手たちや、いろんな経験をしてきた木田やスギに、僕自身が昇格させてもらいました」と謙虚な思いと感謝を語った。
この試合のMVPに輝いた熊谷は、「6,000人というたくさんの方の前でB1昇格を決めることができました。A-xxの皆さんやスタッフ、選手たちと一緒にB1昇格を勝ち取れて、本当にうれしいです!」と笑顔で声援に応えた。

会見では、レマニスHCが瞳を潤ませながら、こんな言葉で感謝の思いを語った。
「4年間一緒に戦ってきてくれたすべての人々と、この喜びを分かち合えることが本当にうれしいです。昨年のような結果にも関わらず、我々のマネジメントはそれまでの積み重ねを信じて、多くのメンバーと再び旅を続けることができました。その恩返しをできて、今は安堵の思いです」

前田は試合終了前からすでに感極まっていたことを明かした。「ベンチから見守るレマニスHCや裕土さん(キャプテン・大塚)の表情を見て、何だかこれまでにない感情がこみあげてきてしまって…」。
アシュリーはアルティーリ千葉入り後の3年間を振り返って、「僕にとって千葉が第2の故郷になりました。この町も、ファンも、チームもスタッフも大好きです」と、過去のチームメイトたちの名にも触れながら、静かな言葉に感謝を込めていた。

翌週、富山を迎えてのファイナルは初戦を92-98で落とす厳しいスタート。しかし、続くGAME2では序盤からA-xxの大声援を力に相手を圧倒し、92-71で取り返した。
この試合ではプレーオフで初めてスターターに抜擢した黒川が、3P 12本中7本(キャリアハイ) を成功させて25得点を記録する飛躍でチームをけん引。同じくスターターで起用されたポーターも、FG 100%の12得点に10リバウンドのダブルダブルで本ゲームのMVPに輝いており、レマニスHCの采配も光る勝利だった。
1-1のタイで迎えたGAME3が、当日発生した千葉ポートアリーナの停電という予期せぬアクシデントで中止となったことは非常に残念だった。
しかし、思わぬ結末ながら、最終的にはリーグ裁定でアルティーリ千葉と富山グラウジーズがそろって年間優勝に決定。プレーオフMVPは黒川が受賞した。いずれもA-xxとともに祝すべき輝かしい快挙だ。

B1昇格の最後のチャンスを掴み取り、B2王者のタイトルを手にしたアルティーリ千葉は今、クラブ創設当初に掲げた「創設5年でB1制覇」達成に向けたスタートラインに立った。
苦難の3年間を経て、当初の「Big Picture」を目指し続けられることを謙虚に喜び、大いなる挑戦の決意に燃えている。
きっとうまくいく。そう信じている。
なぜなら我々にはいつもA-xxがついていてくれるから。
あなたがいるから。
あなたのために。
あなたとともに、アルティーリ千葉の挑戦の旅路は続く。




