「優勝を目指す気持ちで
全員がまとまれるか
どうかが大事」
大胆な行動力とチーム第一の意識
1992年の7月15日、東京・江戸川区で安藤誓哉は生まれた。バスケットボールを始めたきっかけはマイケル・ジョーダンだという。誕生時期的に全盛期のジョーダンをライブで見た記憶はほとんどないが、大きくなるにつれて夢中になった。
今でも、誕生前年の1991 NBAファイナルでジョーダンが見せた「ミッドエア・スウィッチ」と呼ばれる印象的なムーブの話題に、「あれですよね!」と笑顔を輝かせる。
「アクティブだったと思いますよ」というその少年時代、スーパースターの躍動と攻撃力は強烈な印象を残した。故にバスケットボールを始めたのも早かった。ミニバスのチーム入りは小学1年生。人口の多い下町で、地域には当然のように数々の実力者がいて、幼馴染には田渡凌もいた。そんな環境で、安藤はジョーダンの姿を自らに重ねながら、スコアラーとしての実力をめきめきと上げていく。
同年代との切磋琢磨に加えて、中学校の部活引退後には近隣のスポーツセンターで年上の猛者たちにもまれた。その情熱は明成高(現・仙台大明成高)の2年生だった2009年に、ウインターカップ優勝という成果を生む。明成にとって、このときが初の全国制覇。このタイトルランで、安藤は個人的にも平均21.4得点、5.6リバウンド、3P成功率36.8%(38本中14本成功)と爪痕を残している。
同校卒業後は明治大に進学。3年生だった2014年の夏にアメリカでのトレーニングに参加したことをきっかけに、海外プロ挑戦を目指すことに。「もう、とにかく行きたいという気持ちでした」と安藤は当時の心境を振り返る。
「ラスベガスでいろんな刺激を受けて、どこでもいいから早く海外に行ってプロでやってみたくなりました」という安藤に、帰国後ほどなく、ドリューリーグ(アメリカ西海岸の有名なプロ・アマ混合リーグ)出場の機会が舞い込んだ。思いをぶつけない手はない。言葉の壁はあったが、そんなものは打ち破るのみ。まだ1年間在籍するはずの明治大では、主軸としての立場もあった。しかし自分の気持ちにうそをついて後悔するよりも、マイウェイを貫くべき。そう決めて渡米した安藤は、わずかな時間ながらコートでのアピールに成功し、カナダのプロリーグ NBLCに所属するハリファックス・レインメンの社長からオファーを受けた。
「壁はたくさんありましたよ。フィジカルも、バスケ以外のことも。初めてのことばかりでしたから。でも、必死だったので」
「(英会話は)大丈夫ではないですけど、やり切りました」
苦労話は尽きない。しかし安藤は、2014-15シーズンにNBLCのオールルーキーチームに選ばれるほどの活躍で、チームのファイナル進出に貢献。2015年にはフィリピンでメラルコ・ボルツに所属し、その秋にはリンク栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)で日本におけるプロデビューを果たす。以来、今季プロキャリア13年目を迎える安藤は、アルバルク東京で2017-18、2018-19シーズンの連覇達成に貢献。島根スサノオマジックでは、2021-22シーズンにクラブ史上初のチャンピオンシップ進出を実現させ、3度のポストシーズン進出を果たす原動力となった。
知らない世界に飛び出して、自分らしさを発揮しながらチーム全体を成長させてきた安藤は、所属先を決める際、「僕に期待し、必要としてくれる気持ちには、やはりぜひとも応えたいものです。そういう状況では不安はあまりなく、前向きに捉えてきました」と語る。
移籍先ではやみくもに自分の色を出すタイプではない。「自分として何かをしようという気持ちはあっても、わざわざアピールするより、普段の姿を見せること。作るのって大変じゃないですか」
非常に大胆な行動で自らの道を切り開いてきた安藤だが、それは自らの色に周囲を無理やり合わせさせるような手法ではない。安藤らしさは、チームメイトが理解しやすい筋を通しているところだ。
アルティーリ千葉の魅力は「“マイウェイ”を大事にしているところ」
アルティーリ千葉への加入において、その筋とは、個をチームに合わせていくことだ。チーム合流直後の安藤は、「まだあまり練習を一緒にできてないですけど、今の時期(チームビルディングを進めるオフ期間)にメンバーの様子を見ながら合わせていきたいと思います」と話す。
アルティーリ千葉に関しては、B2時代の“無敵の”レギュラーシーズンやドラマに満ちたプレーオフの戦いに注目していたという。また、クラブの在り方については、「自分たちは自分たち、アルティーリ千葉としての“マイウェイ”を大事にして突き抜ける。クールでかっこいいし、組織としてすごくいい」という捉え方だ。
昨季は横浜ビー・コルセアーズの一員としてアルティーリ千葉戦で4勝を挙げ、強い存在感を示した。ディスラプティブ・ディフェンスに対して、「テツ(黒川虎徹)のところをしっかりとスカウティングして、ガード陣にピックアンドロールでしかけた」結果、個人的にも平均 17.5点、3.8アシスト 1.2スティールとハイレベルな数字をたたき出した。つまり、それだけアルティーリ千葉の特徴をよく知っているということ。だが、安藤はそれだけでメンバーの個性を判断せず、実際の練習中に呼吸を合わせていくことで、アンドレ・レマニスHCのフローオフェンスの精度と鋭さを高めたい考えだ。
「いろんなフローがあると思いますけど、やっぱり呼吸が大事。個々の選手の“引力”で相手のディフェンスが引っ張られることで、どれだけコートバランスが変わるかを瞬時に見極めて動く。約束事や規律とは別に、相手のディフェンスや残り時間、試合の流れをコーチ陣と選手で瞬時に共通理解して、適切なプレーを遂行していかないと、自分たちのフローが打ち砕かれてしまうと思います」
その遂行力を生み出すために、チームの調和を求める。これが安藤の言う「合わせる」ということだ。安藤は、ドライブで中に切り込んでいくタイプの杉本慶、日本代表の座を争うピュアポイントガードの黒川、そして “プライマリー・スコアリング・ハンドラー”たるD.J・ニュービルとの組みやすさに好感触を持っているという。2026-27シーズンのアルティーリ千葉は、その好感触がどんなレベルで、どれだけの頻度で体現されるかが大きな見どころとなりそうだ。
レマニスHCのスタイルは、「いい読みができればすごく面白くなる。どういう選手が出たときにどういうスカウティングをされて、どこがウィークポイントになるのか。それをしっかり理解しながらやれたら、いい結果につながると思います」と安藤は期待している。
安藤が筋を通す点はもう一つある。それは優勝を目指すことだ。2026-27シーズンの具体的な目標について、安藤は「優勝目指してやることしかない」と明言した。
昨季のアルティーリ千葉は、19勝41敗(勝率.317)で東地区11位。ただし、2ポゼッション差以内での黒星が11あり、接戦を勝ち切ることができていれば勝率5割に手が届く戦いぶりだった。クラブとして5シーズン目で初めてB1を経験し、最高峰での1つのポゼッションの重さを痛感した。同時に、これまでキャプテンを務めてきた大塚裕土が引退し、「偉大なる歴史の始まり」は第2章に入ろうとしている。
その状況下で、新戦力として加わる自分自身がどんな存在になるべきか。安藤は「まだ練習回数も重ねていないので、ちょっとそこはわかりません」と話す一方で、「優勝を目指す気持ちで全員がまとまれるかどうかが大事」とも話している。
「昨季も同じように思っていたかもしれないですけれど、目指すところは1番上。まずはそこじゃないですか。島根の1年目もそうでしたが、目指すこと自体が大事。キャプテンが誰かというようなことと関係なしに、個々が1人の選手として、まずどうするの?というところです」
チーム作りの中で必要以上に我を出すことなく、同時に個人として積み重ねてきたものをうまく還元して高いレベルにチームを導きたいという思いが伝わる。「A-xxがクラッチタイムでエキサイトしてくれるようなプレーを、僕たちは見せないといけない」
ベテランとして、新戦力として、2度B1を制した勝者として、筋を通す安藤の活躍に期待しよう。
ALTIRI CHIBA