PARTNER STORY 2023-24

アルティーリ千葉と協力して、当たり前の喜びを子どもたちに届ける

日本各地で大手ゼネコンが手掛けるインフラ工事現場に、クレーンをはじめとした重機とそのオペレーター人材を送り込むことを事業とするマルサン重機建設株式会社が、2023-24シーズンからアルティーリ千葉のパートナーに加わった。

代表取締役の西村寿一は千葉市出身。バスケットボールとは、選手として鳴らした中高時代からの長いつきあいだ。現在は武道家としての顔も持ち、自らの身を律し、チームを重んじる経験してきた経営者だけに、社会の土台を作る重要な役割の担う社員には情熱と責任感を求める。また、だからこそ「経営は、人にあり」を理念として掲げ、「社員はもちろん、皆の家族も守らなければなりません」と愛情を注ぐ。

歴史を振り返ると、マルサン重機建設が確かにこの理念を体現し、命を投げ出す覚悟で究極の人助けに取り組んだ記録がある。12年前の2011年3月、東日本大震災により福島第一原発で一連の事故が起こったときのことだ。

3月11日、三陸沖を震源として日本の観測史上最大規模となるマグニチュード9.0の地震が発生。震度7の本震に続く大規模な余震の連続と大津波によるダメージから、福島第一原発では翌12日に1号炉が、14日に3号炉が相次いで爆発し、周辺一帯が高レベルの放射性物質で汚染される非常事態となった。あの現場で、被害を最小限に止めようと死と直面しながら奮闘した人々の物語は、様々な形で伝えられている。その作業員の中に、マルサン重機建設のスタッフも含まれていたのだ。

「3号炉が爆発した時、うちの社員も現場にいました。『これは国難・国策だ。行こう』という先代(故・西村正寿=西村の実父)の決断の下、我々は放射能汚染の危機にさらされた地域に飛び込んでいたんです」と西村は話す。その時点では、同業で現場入りしたのはマルサン重機建設だけだったという。しかし、それが自分たちの使命ということを、先代だけでなく西村自身も、社員一同も理解していた。情熱、責任感。それは経営の礎たる社員の人間力のすべてが注がれた事業だった。

「あのときのように、皆さんが生活に困らないようにするために働くのが私たちの仕事。社会の下支えになれる大事な業界で、グループ全体約140人のスタッフが、約140台の重機を駆使してお手伝いさせてもらっています」。汗、涙、血、笑顔。その本当の尊さを彼らは知っている。

バスケットボールを子どもの成長を促す機会に

マルサン重機建設がアルティーリ千葉とのパートナーシップに乗り出した大きな理由の一つは、地域密着というキーワードで言い表すことができる。千葉の臨海工業地帯の一角に拠点を置く企業として、近隣地域を元気にするプロチームを応援することはごく自然な存在意義の表現だ。

ただし、決定的な理由はほかにある。それは次世代を背負う子どもたちの成長に寄与することだ。社会を良くする人づくりに対する貢献といってもいいだろう。マルサン重機建設のバスケットボール界へのかかわりはアルティーリ千葉とのパートナーシップだけではないのだが、西村はどのケースでも、小学生世代の子どもたちがプレーを楽しむ機会を作り、それを人間教育の場とすることを重視している。

「子どもたちは、お父さんやお母さん、保護者の支援がないと試合会場への行き来もできません。逆に言うと、そこで保護者に『ありがとう』という当たり前の感謝を伝える機会を得られます。それはスポーツの素晴らしさですし、現代の日本人に必要な精神だと思うんです」

時代とともに価値観が変わり、学校や家庭における大人と子どもの関係性は大きく変化している。その上、ここ数年間はコロナ禍で人と触れ合えない、語り合えない時期が続いた。

「コミュニケーションが希薄になりつつある中で、ソーシャルメディアを通じて、顔の見えない誰かから突然中傷の言葉が一方的に飛んできて、傷つけられてしまった人々のニュースも後を絶たないですよね。家庭の団らんも減っている。こんな時代ですから、バスケットボールを通じて会話が増えたり、言葉遣いや人に接する態度など学校で十分教えてもらえない体験を提供させてもらえたらという思いです」

マルサン重機建設の子どもたちに向けた支援は、別の形でも展開されている。実は、里親の啓発・支援事業に取り組むNPO法人日本子ども支援協会(JCSA)の活動にもかかわっているのだ。「あるとき青森県三沢市で、実の両親の養育を受けられなくなった子たちが暮らす児童養護施設にお邪魔する機会がありました。ふと部屋の片隅に目をやると、背の高い黒人の男の子がバスケットボールを持っていたんですよ。米軍三沢基地の兵士と地元の人との間に生まれたお子さんで、声をかけたら『バスケットボールをやっています』と答えてくれました」。それならBリーグに招待できたらいいかもしれない。そう思った西村が施設に相談すると、「直接的な施しよりも、里親制度を応援してもらえたらとても力になる」という説明だった。

里親とは、実の子の養育が何らかの事情でできなくなった親に代わって、一時的にその子を養育する立場の人々だ。養子縁組とは異なり親権はないが、子どもたちに生きる希望を実感させながら養育する非常に重要な役割を担っている。聞けば実の親元で暮らすことができない境遇にある子どもたちは、統計的に把握できているだけでも全国に4万人以上。しかし一方で、里親制度を活用しているのはその2割程度に過ぎないのだという。

「目を輝かせて『バスケットボールの選手になりたいんです』と話したあの子たちを見て、支援させてほしいと申し出ました。実の親から虐待されたり、捨てられたり。様々な境遇のお子さんの話を聞きましたよ」。マルサン重機建設の応接室にJCSAの案内書が置かれるようになったのは、それから間もなくのことだった。

アルティーリ千葉は子供たちが夢を持てるクラブ

過酷な現場に飛び込む勇気。あふれんばかりの愛情。マルサン重機建設の人の魅力はまっすぐでわかりやすい。パートナーシップを通じて、それが毎試合、アルティーリ千葉に注がれる。逆に西村も、「ブラックネイビーでクラブ全体が統一されていて、アルティーリ千葉はかっこいい。子どもたちが夢を持てるそんなクラブが地元にあるのは大事なことです。我々がそのクラブを応援することで、子どもたちが育つ助けになれたらいいと思っています。そのためにも、ぜひともB1昇格を達成してくれること願っていますよ」と話し、このパートナーシップに大きな期待を寄せている。お互いが地域との結びつきや子どもたちの支援を推進する力に、きっとお互いがなれるに違いない。

「帰宅した我が子を『おかえり』と抱きしめる。その愛情を子どもはいつまでも忘れないものですよ」。取材の終わりに西村の口から洩れたこんな柔らかな言葉が、どこか懐かしい団らんの風景を思い起こさせた。

ただいま、おかえり…。白いご飯にいくつかのおかずが並んだ食卓で、親子の会話にアルティーリ千葉の勝利が弾みをつける。そんな情景を増やしていくことが、このパートナーシップの願いだ。