PARTNER STORY 2023-24

ファンの皆さんと一緒に応援することで、チームが強くなってもらえたらそれでいい

アルティーリ千葉のホームゲームを意外な形で支えている企業の一つに、2022-23シーズンの開幕直後からパートナーに名を連ねている和信産業株式会社がある。アルティーリ千葉のホームゲームを会場でご覧になったファンならば、間違いなく誰もが一度は、この会社が手がけたあるものを目にしている。激闘の足跡を記すスコアボードだ。そこに使われている鋼板素材は、実は和信産業が用意しており、成型加工は子会社の株式会社新和の手によるものだった。

和信産業は、鉄の塊をアルミホイルのように薄い鋼板にして、1本の軸に巻きつけたコイルと呼ばれる巨大な鋼板素材をメーカーから仕入れ、その一次加工品を卸販売する会社だ。歴史は長く、現在代表取締役を務めている遠藤重裕の祖父が東京で前身となる個人事業を始めたのは、第二次世界大戦終戦直後の1945年(昭和20年)11月だった。組織を変更して現在の社名で創業した1953年(同28年)から今年で70年を迎える「鉄の老舗」だ。祖父から父へと受け継がれた看板を遠藤が背負うことになったのは、2021年2月のこと。以来3代目として、柔軟な発想力と伝統の技術力を生かして高品質な鋼板製品を世に送り出している。

長年の市況には浮き沈みがある。遠藤によれば、「高度成長期にものすごく伸びた鉄鋼業界も、今は右肩下がりだと世間一般には言われています。例えばかつてなら、薄板の一番の用途は自動車で、そのボディーはほとんどが鉄でしたが、今はアルミや強化プラスティックなどにとってかわられているんです」というのが現状。ただ、遠藤は鉄の可能性も感じている。

「建築や造船から家電製品の部品まで多岐に渡る用途があり、加工性もいい鉄の産業がなくなるとは思いません。例えばIT業界のおつきあいだと、『システムは作れてもそれを入れる箱がない』と言われます。コインロッカーをカードなどで管理するシステムは作れても、コインロッカー自体を作る施設はないわけです。でも、逆に彼らにはアイディアがありますよね。我々が視点を変えれば、そんな方々と出会うこともでき、まだまだこれからも伸びる業界だと思っているんですよ」。冒頭のスコアボードも、ある意味で鉄とバスケットボールの出会い。柔軟な発想の象徴だ。

パートナーシップとバーチャル工場の構想で将来性をアピール

和信産業には、高品質で多彩なモノづくりに欠かせないハード面の強みもある。

鋼板素材のコイルは、直径が大柄なバスケットボール・プレーヤーほどで、ひと巻き10トン前後の重さ。コイルセンターと呼ばれる千葉工場には、この素材を加工する全長20mに及ぶ巨大な機械があるのだが、実は製造元がすでに廃業している。「新たに作るとしたらべらぼうに高くて、今後新規参入してくるところもないでしょう」と遠藤は話す。べらぼうとはどのくらいかというと、安く見積もっても1台なんと20億円以上。オペレーターも複数必要で、その技術インストラクションも、製造元がない状況でのメンテナンスもと考えれば、確かにこの機械を所有し、運転し続けること自体が強みだ。

加えて東金市にある工場が、千葉工場と異なる厚みのある素材の溶接や組み立て(厚板製缶業)に対応。子会社の新和では一次加工した鉄板から様々な成型物を生み出すことができる。「薄板を扱うコイルセンター、厚板を扱う東金工場、薄板板金の新和と3つをそろえていることは強みですね。わかりやすくジャガイモで例えるなら、原材料があればチップスもスティック状の菓子も、もっと複雑な形状の菓子も作れる施設をすべてもっているということです。同じ鉄でもこの3業種で使う機械はまったく違い、一つの企業ですべてができるのは非常に稀なんですよ」。遠藤はこう説明して胸を張る。

ただ、アルティーリ千葉とのパートナーシップに行き着いた経緯を聞くと、別視点からの課題が見えてきた。

トン単位の重材を日々扱い、刃物のように鋭利に加工された鋼板の束に囲まれて働く工場の現場には、どうしても事故のリスクが伴う。安全第一でヘルメットや作業服を身に着ける必要があり、そのスタイルで体力を使う仕事をこなす作業員の負担も大きい。こうしたネガティブ要素の撲滅が、和信産業単独というより鉄鋼業界全体として、将来性を世に認知させていく上で大きな課題なのだ。

一方で遠藤は、社内でバスケットボール熱の高まりを感じてもいた。そんな折、千葉市をホームとするアルティーリ千葉が誕生し、勢いよくB2に昇格してきたことを知る。社員やその家族をこのクラブのホームゲームに招待できたら、福利厚生面で大きなメリットがありそうだ。そう思えた。「それに、高校生や大学生の間で鉄鋼業界は決して花形の仕事でもありませんから、採用活動でアルティーリ千葉の力を借りながら、企業情報を広められたらありがたいと考えたんです」

遠藤のアイディアはこれだけにとどまらない。実は、機械操作をロボットに任せるバーチャル工場のアイディアも持っている。「一番危険なのは工場にいるときですが、おそらく将来的には人が工場にいなくてもロボットを操作して加工作業をできるようになります」

それにより工場の安全性は間違いなく飛躍的に高まる。同時に、将来的に重要性を増すメンテナンスに社員をシフトすることもできる。あるいは商品開発や効率向上のイノベーション、遠藤自身が取り組んできた異業種の人々と出会うような知の探索などにも人手を当てられるかもしれない。

アルティーリ千葉をきっかけにバスケの盛り上がり自体も後押ししたい

これは将来性そのものだろう。その上に地元密着でアルティーリ千葉を応援するとなれば、イメージが悪いはずはない。もしアルティーリ千葉が勢いを保っていければ、社内の士気も高まり、新しい力の創出を生み出せそうだ。ゆえに遠藤は、非常に真っすぐな期待をアルティーリ千葉に抱いている。

「今シーズンこそB1に上がってもらいたいというのが一番。その力はあると思いますし、将来的にはワールドカップのような大会にアルティーリ千葉の選手が出てほしいとも思います。ファンの皆さんと一緒に応援することで、チームが強くなってもらえたらそれでいい。B1昇格を果たせたら、B2時代のはじめから応援している身として誇りに思えるでしょうしね!」

2023-24シーズンは、開幕早々の10月に行われるホームゲームに社員を招待。また年末には、遠藤と和信産業が音頭を取って、鉄鋼関係のある業界団体の加盟社一行でアルティーリ千葉の応援に繰り出す企画もあるという。

「ほとんどが千葉の会社なので、応援の輪が広がったらいいと思いますし、バスケって楽しいなと思ってくれるだけでもいいんです。これからバスケはどんどん盛り上がっていくでしょうから、我々もそのお手伝いができたらという思いです。新アリーナの建設にも鉄は使われるでしょうし、すごくおもしろくなっていくに違いありません」

千葉工場周辺の工業団地には、鋼板を加工するガァンガァン、ギュウ~ンギュウ~ンというリズミカルな音が毎日鳴り響く。鉄の老舗が新たな歴史を切り開こうと躍動している音だ。