PARTNER STORY 2022-23

企業認知度向上とともに千葉市の製造業の未来を創るパートナーシップ

強いチームには必ず、数字に残らないインタンジブル(無形の価値)をもたらすベンチプレーヤーがいるものだ。業界では誰もが知る有能なタレントで広く高評価を得ている。ボックスアウトやスクリーンなど泥臭い仕事に体を張り、機転の利いたディフェンスで決定的な危機を当たり前のように回避する。しかし、その奮闘の多くが数字に現れないために一般的な知名度は低い。

蘇我地区からほど近い千葉市の東京湾岸沿いにJFEスチール東日本製鉄所がある。第二次世界大戦後の日本に初めて誕生した銑鋼一貫の臨海製鉄所でその敷地内にミズレック千葉事業所はあり、製鉄過程の副産物「スラグ(岩石のような物体)」の加工・処理に従事し、合わせてその運搬や工場内の環境整備、設備や車両・建機のメンテナンス作業を行っている。千葉市に本社と千葉事業所を構え、岡山県倉敷市のJFEスチール西日本製鉄所内にも事業所を持つ。社員数は約500人。代表取締役を務める水野晴子氏は「製鉄所内でミズレックを知らない人は少ないと思います。」と話す。ところが一歩所外に出ると、「全く知られていない」のだという。

専門家の誰もが知る優良企業。しかし世間一般にその価値が伝わっていない。冒頭のベンチプレーヤーと同じだ。ただし、ミズレックには単一のプレーヤーにない企業責任がある。認知度を高めて次世代の担い手たる人材の採用を増やすという挑戦に向き合う必要があるのだ。

映画のロケ地のような現場で高品質の作業を展開

千葉県公式サイトは、臨海製鉄所を「千葉県次世代エネルギーパーク」の一つとして紹介している。東京ドーム164個分という広大な敷地に広がるこの施設は確かに、鉄のプロが用意したテーマパークと言えそうな様々な要素がそろっている。

入口を通過すると程なく、貨物車両用の線路が視界に入る。それは海に続くかのようであり、どこから始まっているのかわからない、一見すると所外の人には「謎の線路」だ。公道では決して出会わない50トン級の超大型ダンプが、スラグの山々を背景に動くのも見ることができる。常務取締役千葉事業所所長である神德宜昌氏の説明によれば「車両価格は1億円をゆうに超える」車両もあるという。

高炉と赤茶けた配管群は巨大な要塞のようだ。ここで生まれるスラグは1000℃という日常聞き慣れない超高温に達する。まるでアクション映画のロケ地に迷い込んだような所内からは、普段表玄関から見慣れたはずのフクアリさえひと味違う表情に感じられた。

ステンレスマグカップや自動車の車体などまで、鉄製品は身の回りのあらゆるところにある。しかし、日常が製鉄所と縁遠ければ、その故郷がこんな身近で面白い場所だとは思い浮かばないし、ましてやマグカップに必要なステンレスの生産過程で生じるスラグは言わずもがなだ。

ただ、水野氏がチョコレートになぞらえて説明してくれたスラグを扱うビジネスの流れは明解でわかりやすかった。「チョコレートを作る際、カカオを割って原料となるカカオニブ(カカオ豆の胚乳部)をほかの部分と取り分けるのがミズレックの役割です。カカオを仕入れて板チョコを売る作業、原料を溶かしてチョコレートにする作業は当社ではありませんが、取り分けられた副産物の殻や皮を引き受けて、バイオプラスティックなどリサイクル製品の原料にするお手伝いをミズレックでさせていただいています」

原料のカカオは鉄鉱石であり、カカオニブが鉄、分離された部分と最後に雑味が残る部分がスラグにあたる。ミズレックの特徴が、臨海製鉄所というユニークな職場で鉄の副産物を徹底的に有効活用し、SDGsの意識が年々高まる現代社会において必要不可欠といえる仕事を遂行することだと理解できた。

事業の特徴はほかにもある。それは、管理・運転が難しい重機や設備を持つ職場をパークと呼ぶべき環境に保つための「災害ゼロ」の姿勢だ。「ミズレックの目標は安全を守るチーム」と水野氏は明言する。「災害が起これば売上が停滞して利益が下がるのはもちろん、人がケガをします。見えるケガは治っても、見えないケガ、治らない心のケガもありますからね」

ミズレックにはいわゆる営業部隊が存在しないのだが、それも「災害ゼロ」推進の現れであり、新たな仕事は質の高い仕事の積み重ねでつなげていくものという考えからだ。「一般の会社が売上や取引件数の多さを目指すのに対して、私たちは“ゼロキープ”が売上向上の土台。災害を起こさないことが一番大事です」と水野氏が話せば、神德氏も「取引先に出向く営業はいませんが、作業にあたる全員が営業です。仕事は速いだけではだめで、(安全であることを含め)きれいに行わなければ次につながりません。出来高ではなく“出来かた”が重要です」と質を追求する姿勢を強調した。

インタンジブルな魅力と価値を次世代へつなぐために

こうした魅力ややりがいを、就職を考える高校生年代を含む若年世代とその保護者に届けるにはどうすればよいか。このミッションにおいて司令塔の役割を担った総務部長である櫻井慎太郎氏が、アルティーリ千葉とのコミュニケーションの中で組み立てたのが今回のパートナーシップだ。

水野氏にも好印象だったという。「知名度アップになぜバスケットボールなのか懐疑的でした。」というのが最初に説明を受けた率直な感想だ。「当社を知っていただくためのツールとしてスポーツは楽しめますし、アルティーリ千葉なら地元チームとして応援できます。」

水野氏も神德氏もアルティーリ千葉について以前から知っていたわけではなかったが、二人ともスポーツ好きで観戦カルチャーも良く知っている。パートナーシップを決める前に行われたホーム開幕戦を観戦したときには、水野氏が観戦に参加した社員全員にレプリカユニフォームをプレゼントして応援したそうだ。試合を見始めると展開にのめり込んでしゃべらなくなるという神德氏はその後もたびたび試合会場に足を運んでいるといい、「粘り強く戦って、接戦で必ず最後に勝つような試合が見たいですね」とチームの躍進に期待を寄せる。

今回のパートナーシップで、ミズレックとアルティーリ千葉はお互いにとってのインタンジブルになれるチャンスを得た。自分たちにもパートナーにも明るい希望を感じている。「強くて、ファンやパートナーを大事にするチーム、アルティーリ千葉を見て私たちも頑張らなきゃと思えるチームであってほしいですね」というのは、クラブ全体に向けた水野氏の期待だ。「私たちもそんなクラブと一緒に成長していきたいですし、いつか子どもたちにも『ミズレックってどこかで聞いたことがあるな』と身近に感じてもらえる会社になるためにも、長いつきあいをしたいです」。水野氏は明るい笑顔でそう話した。

水野社長のイチ推しプレイヤー
#6 小林大祐選手

試合の流れが悪い時こそチームを落ち着かせるようなプレー、そしてフィジカルを活かしたドリブルやシュートは観ていて爽快です。昇格請負人としての職人技をこれからも期待しております!